マニュエラ・ポール=カヴァリエ 展 / Poésies blanches, inspiration du jardin japonais 展覧会を終えて

2015.12.01  Manuela Paul-Cavallier 展覧会 展覧会レビュー

2015年9月29日(火)~ 10月15日(木)の期間、フランスの金箔造形作家、マニュエラ・ポール=カヴァリエの展覧会 「Poésies blanches, inspiration du jardin japonais」を開催いたしました。

 

“雪に覆われた静寂の庭園 凛とした雪上に射す日や月の光”

本展覧会では冬の日本庭園の姿に感じた詩趣を箔と胡粉で表現した「Poésies blanches ―白い詩」を中心とした詩情豊かな作品を展示となりました。また、マニュエラと清課堂、そして仏人・デザイナーのゴリアト・ディエーヴルとのコラボレーション作品「Le petit théâtre de lumière ―光の小劇場」も展示し、金色の光と影が織りなす会場となり、皆様に愉しんでいただけたことを嬉しく思っております。

尚、「Le petit théâtre de lumière ―光の小劇場」は笹川日仏財団(Fondation Franco-Japonaise SASAKAWA)の助成のもと、アーティストレジデンス “ヴィラ九条山” の企画展としてフランスのデザイン・フェスティバル D’ DAYS(2014年)にて発表し、本プロジェクトは多大なる評価を受け、日本では今回初公開となりました。

 

本展覧会開催にいたるまで

金箔造形作家マニュエラ・ポール=カヴァリエは、絵画や額縁における 13世紀 ~ 18世紀のフランス、イタリアの古い技法を体得しフィレンツェで国家プロジェクトとしての修復に長年従事したのち、顔料や金箔、膠(にかわ)、胡粉を用いた抽象作品を制作してきました。近年エルメス、イブ・サンローラン、ルイ・ヴィトンなどのブランド・メーカーとのコラボレーションを数多く手がけるなど、企業プロジェクトにも意欲的に参加してきました。2014年10月から12月にかけてのフランスのアーティストレジデンス「ヴィラ九条山(京都市左京区)」滞在を経て、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に代表される日本の美意識を研究し昇華しました。

私、山中源兵衛とはヴィラ九条山滞在期間中に出会い、彼女の工房来訪を重ねるうち互いの感性と研ぎ澄まされ新たな創作意欲が湧きたちました。ちょうど同じ時期にレジデントとして滞在していたプロダクトデザイナー、ゴリアト・ディエーヴルの力を得て、光と錫造形と金属箔を巧く組み合わせた彫刻作品シリーズ、“Le petit théâtre de lumière ―光の小劇場” の製作にかかることとなりました。このプロジェクトには彼らの帰国後も含め、およそ半年をかけて打ち込みました。

これら彼女の滞在・研究・製作、清課堂との交流、共同製作の集大成として、「Poésies blanches, inspiration du jardin japonais」が開かれることとなりました。

 

本展覧会を振り返って

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主な作品シリーズとなる「Poésies blanches ―白い詩」たちは、私たち日本人から見て慣れ親しんだ枯山水、砂紋からモチーフを得たものだと直感的に理解しえる作品ですが、用いられた素材はすべてフランス、イタリアはじめヨーロッパで製造されたもので、わずかな色合い肌合いが日本の古典由来のものとは違って見えます。彼女の大胆かつ計算された “書” の技巧が、さらにそれらのもつ個性を引き出しているようです。淡い光の中、手漉きの紙の上で浮かびあがる胡粉(ごふん:二枚貝からつくられたイタリアのもの)の造形は、細かく泡立ったクリームのような動きのあるものでした。錫を主に用いられた一部分の金属箔の光が、その作品をぐっと引き締め鑑賞者の意識がその一点に注ぎ込まれるようでした。大小合わせおよそ 30点の本シリーズは、彼女の日本滞在においてインスピレーション得た作品の集大成となりました。

すでに 6月1日〜 7日パリのルーブルにある装飾芸術美術館(Maison des Musées du Monde)を中心に開催された、フランス最大のデザインフェスティバル “D’Days” にて発表したコラボレーション作品 “Le petit théâtre de lumière ―光の小劇場” は、絶大なる評価を得て日本への巡回展示となりました。当初の企画段階より、和の空間と床の間で表現される光と影がテーマとなっていたこともあり、清課堂のもつ茶室とその床の間、畳の間に絶妙にマッチしただけでなく、錫と金属をもちいて作成された本作が帰るべきところへ帰ってきたかのような居心地の良さを感じました。

 

3種類の竹を素地にした高さ 1.5メートルの壁面作品 “Lumière de bambou” は、まさに彼女が讃仰する谷崎潤一郎の陰影礼賛の世界を表したものでした。和の空間で蝋燭一本ほどの薄暗い明かりの中、ふすまや障子に照り返されたわずかな明かりが垣根のように組まれ、金属箔を施された竹のオブジェはゆらゆらとほのかに光り輝きました。

 

期間中 9月29日(火)には、茶室空間をつかっての陶々舎によるお茶の振舞い、作家/作品たちとともに気軽に薄茶とお菓子を楽しんで頂く時間を設けました。当日夜には、レセプションパーティが盛大に行われました。

10月3日(土)は、京都市内各所で行われる現代美術を楽しむイベント “ニュイ・ブランシュ KYOTO 2015” が開催され、本展覧会はその一会場として夜遅くまで開廊しました。通常は店舗の開店時間の 18時まで展覧会をご覧いただけますが、当夜は各イベント会場を回遊されるお客様にあふれ、日の落ちた時間に光と影をじっくりお楽しみいただく特別な展示となりました。

最後になりましたが、 今展覧会を開催するにあたり、ご協賛頂戴した企業様・組織様らのお力添えにあらためて心より感謝いたします。

・アンスティチュ・フランセ 関西 Institut Français Kansai
・ヴィラ九条山 Villa Kujoyama
・株式会社エスディーヴィージャパン K.K. SDV Japan
・全日本空輸株式会社 ANA

(Genbei Yamanaka)

 

マニュエラ・ポール=カヴァリエ プロフィール
金箔造形絵画作家。
フランス国立美術館の金箔修復師として 10年間フィレンツェでその技術を学び、13世紀や18世紀のフランス、イタリアの古い技法を用い、現代的なアプローチで作品を制作。
又、イテリアデザイナーのために金に古色仕上げを施す等、自身の作品制作のみならず幅広く活躍。近年ではエルメス、ルイ・ヴィトンとのコラボレーション、そしてイヴ・サンローランのハイラグジュアリー・エディションとして香水ボトル 50点に金箔を施すコラボレーションも行う。2014年10月~12月、ヴィラ九条山のレジデントとして滞在。

(2015年現在)

マニュエラ・ポール=カヴァリエ
https://www.manuelapaulcavallier.fr/

 

ゴリアト・ディエーヴル プロフィール

コラボレーション作品・光のオブジェ「Le petit théâtre de lumière」デザイナー。
造形芸術に重点をおいた文系の教育を受ける。パリ・ヴァル・ド・マルヌ建築学院に在籍後、国立工業デザイン高等学院(ENSCI)に入学。エルメスやフランスのデザイン家具のチナなどの仕事を手がける。デザイナーとして 5年間の共同制作の後、単独での活動を開始。2014年9月~12月、ヴィラ九条山のレジデントとして滞在。

(2015年現在)

ゴリアト・ディエーヴル
https://www.goliathdyevre.com/

 

NUIT BLANCHE KYOTO 2015への参加

清課堂は金属という素材を通じ、文化・技術を学び金属工芸の世界やそれを取り巻く環境がより豊かになることを目的とし、さまざまな国や文化振興組織との交流を続けています。以前から交流があるフランス・パリと姉妹都市である京都市では例年 10月に “NUIT BLANCHE KYOTO” が開催され、本年度の “NUIT BLANCHE KYOTO 2015” は今展覧会にて参加しておりました。

※ NUIT BLANCHE:フランスのパリで毎年秋に開催される一夜限りの現代アートの祭典
https://www.nuitblanche.jp/