錫のタンポ 模造品との比較をしてみました

2006.09.04  清課堂の日々 酒の器

昨今、錫のタンポ(燗器)の模造品が出回るようになりました。酒を美味くすると錫製酒器の人気・需要が高まるとともに、不況にあえぐ日本酒メーカー、問屋、小売店が、酒以外の製品販売で利益を得ようとしている現状があります。日本の酒関連業者が海外で模造品を作らせている場合が多いようです。

模造品は中国製、マレーシア製の何種が出回っていますが、今回それらの一つを購入(6,000円前後でした)し、本物と模造品との違いを実際に手にとって比べてみました。

 


 


錫のタンポ比較

模造品が店頭に並ぶことは少く、インターネットを通じて仮想店舗で販売される事が多いようです。手に取ると明らかにはっきりと違いが判るのですが、写真画像だけでは細かいところが判明しません。「ネット販売ならでは、の商法」といえるでしょう。(右が本物、左が模造品)

 


1、肌

模造品 肌

上の写真は模造品。製法の違いから、肌に大きな違いが現れています。本物はロクロと鉋(かんな)で削り出し、こちらの模造品は機械旋盤加工。生産国が明示されていませんでしたが、技法から見ておそらく中国製ではないかと推測します。

模造品は、細かい起伏とキズが多いので、手触りがザラザラしています。研磨せず光沢が無いので全体的に白っぽく見えるとともに、細かい線状のキズに汚れが溜まり易いようです。指で触れた瞬間に、手汗の汚れがすぐに残りました。

本物 肌

こちらは本物。手にとって、同心円と垂直方向に指で撫でてみると誰でもすぐわかります。

通常、我々の仕事ではロクロにて切削加工の後、表面の微細な凸凹を取り去り、さらに研磨します。手で触れるとつやつや、さらさらしてます。模造品に光沢が無いのは、旋盤で削りだしたためにその「歯」の跡がそのまま残っているからです。

 


2、材料

この製品は材料表示がなされていませんが、仮に東南アジア製のピューター工法・地金なら、日本の食品衛生法に触れることがあります。東南アジアのピューター(錫合金)製品は、錫含有量が91%、アンチモン7%というのが標準。食品衛生法では、アンチモン含有が5%未満という規制があります。

今後、模造品の成分検査が必要だと思います。取っ手の部分に力を入れてみたところ、本来柔らかいはずの錫だとは思えない硬さでした。非常に硬い合金素材でした。

 


3、籐、取っ手

模造品 籐巻き

上は模造品。伝統的な籐(とう)巻き法を見よう見まねで模造したようですが、根本的な誰が見ても判る大きな間違いがありました。おそらく、使っているとすぐ外れます。素材はささくれ立ってい、薄いものでした。模造を防ぐためここでは詳細に申し上げられませんが、写真をよくご参照ください。

下の写真は本物。取っ手細部の作り込みが全く違います。

本物 籐巻き

ちなみに、巻いてある籐は消耗品です。通常はしっかり巻くと10年以上は耐久します。もちろん弊堂では、籐の巻き直しも承っています。模造品の籐が切れ外れたら、この販売店はどうするのでしょう。

 


4、意匠の模造

今回手に入れた模造品は、とある箇所が、法的に意匠認定・保護がなされているところをそのまま模造していました。そういうわけで、この模造品の輸入・販売が法的に禁止されています。

この模造品には法的に明らかな問題があり、取り扱い業者は間違いなくは罰せられます。模造者へのネタバレを防ぐため、詳細は伏せて記述します。

 


5、表面加工、細部加工

模造品の細部をよく見れば、仕事の粗さが際立ちます。旋盤機械加工なので、全体的にエッジが立って角張っています。手で全体的に触れるとゴツゴツ、トゲトゲ感がありました。日々使う器は、やはり「手に馴染むこと」が大切だと思います。本物は、面はしっかりと磨き上げられ光沢はありますが、角部は丸みを帯び手の感触がやわらかく滑らかに感じられるよう、緻密に加工しています。

模造品 細部
(模造品の細部)