丸山祐介展を振り返って

2010.12.07  ワークショップ 丸山祐介 展覧会 展覧会レビュー

 

丸山 祐介

11月8日(月)~11月20日(土)、丸山祐介による3回目の個展が開催された。2年半前になる前回個展で新たに発表された「house」シリーズの発展系であり集大成である。

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今回の展覧会は、事前の打ち合わせによって実は方向性やメインテーマ、会期やイベントなど、紆余曲折の末に出来上がったものだ。もともとか彼の代表作である「兜」を並列に展示する予定であったものを、テーマを集約し絞り込みたい当方の意向を踏まえて「house」だけの展覧会にしていただいた。また、作品の展示だけではないなにか、(例えば前回フランス人のワイヤーレース作家アルメル・バローで大変好評だったワークショップなど)を開催したいという当ギャラリーの意向を盛り込んでいただいたことによって、準備期間を考慮し会期を10月から1ケ月後ろにずらした。これら急な変更が続いたことは丸山にとっては大きな負担となったかもしれないが、それをものともせず多くの新作に急きょ取り組み素晴らしい作品を見せてくれた。

丸山祐介

まず作品について。2年半前に発表されたものと比べて個々の家々についてはそれほど大きな変化が見られない。家は愛らしく小さく、どこか異国の地で見たような風景だ。美しい家は、見る人を作品へぐっと寄らせ近づけさせる。この銀や銅、黄銅で作られた小さな家々や風景が多くの人を魅了してきた。前回との違いは、オブジェ(オーナメント)が増殖したことだろう。金工でいう用と美の概念からは少し離れた、すなわち見て楽しむことに重点を置かれた作品たちが多かった。箱や花器、香炉が主だった前回とくらべるとそれは大きな違いとして表れていた。心境の変化によるものなのかこれは評価の分かれるところだが、お求めいただいた方の多くはすでに当ギャラリーにて彼の作品を手にされているいわゆる顧客と呼ばれる方々だ。すなわち、彼の作品のコレクターというわけだ。オブジェの形であっても、たくさんの作品たちが嫁いでいった。これは工芸の世界で若手作家が見落としがちな、大切なヒントが隠されていると私は考える。

(若い世代の作家と接してい共通して聞こえてくるのは、作品が売れない、何を作ればよいか判らないという嘆きだ。私が大切に思うのは、作家やギャラリーによる顧客創造と顧客となったコレクターへの適切なアイテム創りだと考えている。大きさやデザイン・コンセプトも含め、顧客となりうる方々へ耳を傾けそれを形にし提供できる丸山は素晴らしい創造力の持ち主だと思う。)

丸山祐介

作品とあわせて、今回展覧会での重要なイヴェントであったのは来場者参加型のプロジェクト、「小さな家づくりワークショップ」だ。開催期間中随時、ご来場いただいた方に「錫」の板を切ったり曲げたり叩いたりして頂き、それを組み立ててそれぞれの思うがままの小さな家をつくっていただいた。それを専用会場として用意された茶室にて配置し、2週間の会期をもって「大きな街」を作り上げるワークショップであった。
このイヴェントには、4つの大切な要素が盛り込まれていると考える。まず、普段は触れることはまずない、金工の道具と材料に触れて親しんでいただくことだ。これはまず誰もが直感的に「楽しい、おもしろい」と感じたことだと思う。未知のものを体感するということは、単純にこころ揺さぶられることだろう。
二つ目は、京都清課堂を会場にして開催しているということだ。ワークショップ会場の和の空気を感じ、錫の老舗で錫の材料に触れていただくことで、京都、または清課堂そのものを身近に感じていただいたことだろう。この会場ならではの空気が、このワークショップにあったと考える。これらは、このワークショップのもつ「エキスペリエンス(体感)」の側面だ。
さらには、老若男女の来場者が一体となって街、すなわち一つの作品をつくり上げてゆくという作業。これは、単に体験という切り口で時間を費やし個別の作品作りをするだけではない。100戸近い家が立ち並ぶ壮大な街づくり計画に参加していただいた。これも普段の生活ではなかなか味わえない貴重なものだし、また作られた街は壮観で完成された一作品となった。
最後に、作家である丸山祐介本人が会期中出来うる限りワークショップの講師として在廊したことにも大きな意味があった。ワークショップを通して、来場者の方々と文字通り膝を突き合わせて作家と時間を共有出来たことは、作品を並べ見せるだけの展覧会とは違う次元のコミュニケーションであり、作家と来場者の距離を縮めた強力なイヴェントだった。丸山自身も、今後もこの活動を続けていきたいと言っていた。

さて、今回当ギャラリーとしては初めて、Twitter(@seikadogallery)を本格的に情報公開のツールとして用いた。これは結果的に、想定していた以上に展覧会やワークショップに興味をもって多数の方々にご来場いただいたようだ。このツールは会場の雰囲気を即時になまなましく伝えられるだけでなく、フォロワ(関心を持って清課堂ギャラリーの「つぶやき」を読んでいただいている方)という形を通して、お客様との距離が縮まったと思う。これについては今後も検証を続けたい。

(山中源兵衛)