金属工芸公募展いまからまめさら2018「アンスティチュ・フランセ日本賞」受賞者・谷口史さん ヴィラ九条山短期滞在レポート

2019.07.14  アーティスト いまからまめさら いまからまめさら2018 コラム 谷口史

2018年7月7日~7月16日に開催した、金属工芸公募展「いまからまめさら 2018」 において、
フランス語教育と日仏文化交流に努めるフランス政府公式文化機関であるアンスティチュ・フランセ日本様より設けていただきました「Prix Institut français du Japon/アンスティチュ・フランセ日本賞」を受賞された谷口史さん。
その副賞として、昨年2018年10月5日に開催された「ニュイ・ブランシュKYOTO 2018」のメイン会場アンスティチュ・フランセ関西での作品展開催、そして、今年の6月18日~24日にヴィラ九条山での短期滞在制作の機会をいただきました。
今回、谷口さんは普段とは違う環境の中で、作品のアイデアやデザインを探る「形の考察」をテーマとし滞在制作する中で、新たなものづくりの感覚を得る貴重な経験をすることができました。
本日は、この機会を得た谷口史さんのレポートを発表いたします。

(nakano)

 

ヴィラ九条山短期滞在を終えて 谷口史

昨年、2018年7月に開催された清課堂主催・金属工芸公募展「いまからまめさら2018」に出品した作品〈Spotlight〉をアンスティチュ・フランセ日本様が設けられた賞「Prix Institut français du Japon/アンスティチュ・フランセ日本賞 」に選んで頂きました。この受賞に伴い、副賞として2018年10月に開催された「ニュイ・ブランシュKYOTO 2018」アンスティチュ・フランセ関西会場での作品展開催とヴィラ九条山での滞在制作の機会をいただきました。

受賞当時の制作状況との兼ね合いで、レジデンス期間は2019年6月18日から24日までの7日間の日程となりました。ヴィラ九条山での制作期間と現地設備を考えると、私が普段取り組んでいるような金工制作を再現することは難しく、また、施設でのオープンスタジオ(一般の方も見学出来るよう施設を開放し、レジデントの滞在中の活動成果を発表する日)が滞在5日目になる6月22日の予定だったので、限られた時間と環境のなかでどのようなことをすれば自分にとっても有意義な滞在になるだろうと考えました。そこで、普段取り組んでいるような工芸制作とは一旦頭を切り離し、作品のアイデアやデザインを探る段階での感覚的な強化に繋がることをしたいと思い現地に臨みました。

私の場合、デザインを考える過程で実際に材料である金属板を折ったり丸めたりしたパーツを組み合わせ、三次元的なイメージへと膨らませていくことが多いのですが、どうしても素材の加工しやすい形にだったり、自分の手癖のパターンが多くなってしまうので、今回の滞在制作では〈形の考察〉を自分のなかのテーマとし、普段と違った形へのアプローチをすることで新たな発見を得ることを目的とした二つの取り組みをすることにしました。

まず滞在前半は、トレッシングペーパーにコンテなどで自由に線を描き、平面上で自分が気持ち良いと感じる形を探すことにしました。最初のうちは線だけでなく形を塗り潰してみたり、面の要素も取り入れたドローイングをしていましたが、最終的にはシンプルな線の要素だけに絞って枚数を重ねました。紙では無くトレッシングペーパーに描くことで、描いたもの同士を重ねたりずらしたりして、また違った視点の形が現れるという新たな発見がありました。

ある程度平面のドローイングをしてから、その感覚を素に3日目からは並行して細めの真鍮棒を使った立体的なドローイングを始めました。施設には火が使える設備は無かったので、簡易のハンドバーナーを持ち込み、ヤスリで切り込みを入れたり熱で柔らかくした金属を曲げたりして工夫しながら形を作っていきました。360度、どの角度から見ても美しい線やリズムを意識しながら真鍮棒を曲げていきました。最終的には出来上がった繊細なフォルムが際立つよう、壁から吊り下げて展示することにしました。

オープンスタジオ当日には、宿泊していた自分の部屋を展示場所として公開しました。予め持ち込んでいた普段の作品と併せて、光が透けるよう窓際にドローイングを貼り、壁際には真鍮棒の立体ドローイングを大小8つ吊り下げて展示しました。

発表には多くの方が見学に来て下さり、興味を持って普段の作品や滞在中のドローイングについての感想を口にして下さいました。海外の方も多く、普段聴けない作品の感想を聴くことができたのはとても貴重な経験でした。発表までの期間が短かったため、私の他に滞在していた7名のレジテントとはあまり制作上の交流を持つことはできませんでしたが、オープンデイにそれぞれの制作部屋を見学させてもらい、各自の発表を聴くことが出来ました。

他の滞在アーティストは、竹を使ったプロダクトデザイナーやブックデザイナー、コンテンポラリージュエリーのデザイナーなど、分野は多岐にわたっていました。しかし、素材への研究への取り組み方や考え方などはとても共通する部分があり、人や街と関わりながら滞在制作することで、それぞれの分野にちゃんと結びついた研究をそれぞれ行っていると感じました。

今回のレジデンスを終えて感じたのは、工芸家として展示させて頂く機会などが増えてくると、どうしても実際に手を動かす時間に追われ、直接作品に繋がらないことに費やせる時間が減ってしまいます。しかし今回7日間という贅沢な時間を形を探るためだけに使うということが、自分にとってとても新鮮で贅沢な時間でした。

改めて自分から出てくる線や形がどういうものなのか、自分が気持ちいいと感じるリズムにはどのような要素があるのか、今の自分と密に向き合いながら手を動かす機会を持つことが出来たのは、今後の活動を続けていく上でとても重要な分岐点になったのではないかと思います。日本で金工作家をしていると、「レジデンス」というものに馴染みがなく、現地で道具や制作環境を整えることが難しいため、あえて学ぶことがあるのだろうか?といった考えになってしまうのが大半ではないかと思います。

しかし、実際に経験してみると、普段の制作が出来ないからこそ普段とは違ったものづくりの感覚を養う機会になり、結果的に自分のフィールドにも還元できるような新たな感覚を得る貴重な経験が出来たと感じています。今回の滞在で得た感覚や経験を生かして、観る方々に今までからまた発展した要素を作品から感じて楽しんで頂けるよう今後の制作活動に繋げていきたいと思います。

最後に、滞在期間中の制作の要望にも親身になって協力して下さったヴィラ九条山のシャルロット・フーシェ=イシイ館長を始めとするスタッフの皆様、また、前アンスティチュ・ フランセ関西・文化プログラム主任ベアトリス・オルヌ 様、そして清課堂ギャラリーの山中源兵衛様とスタッフの皆様に心よりお礼申し上げます。どうもありがとうございました。