糧となる旧年を経て、本年も邁進してまいります。

2009.01.01  清課堂の日々

私が代表取締役となって今年で3年目に入ります。伝統のある老舗としてではなく、まだまだ成長途上にある若き職人集団という意識で、この2年間刻苦勉励してまいりました。2009年も、ますます邁進していくつもりです。どうぞよろしくお願いいたします。

2008年の清課堂は、いろいろと変化のある一年でした。まず、現在清課堂には私の妻、両親のほか4名の女性従業員が働いていますが、昨年初めて従業員一人が「産休」をとることになりました。それまでの家内工業から、私の代より従業員を雇用していますのでもちろん初めての出来事です。私はかねがね、女性が働きやすい環境をつくりたいと思ってきました。

労務の勉強を続け、慣れないながらもよりよい環境づくりを心がけました。弊堂の製品・作品作りには、女性職人・デザイナーの力なくしてはありえません。09年も、若い職人達とのよりよいパートナーシップづくりを課題にしていこうと思っています。

昨年はこれまで交流のなかった分野の方々との仕事が実現しました。京都を拠点に活動するデザイナー・建築家集団の『和空』が伝統工芸とディズニーの融合をテーマとした新ブランドを立ち上げたのですが、私も一員としてミッキーの顔をモチーフとした「香炉」などを発表いたしました。また、明治時代の実業家村井吉兵衛の別邸で、現在都市型リゾートホテルとして営業されている『長楽館』さんから、客室バス・トイレタリー用品の特別製作のオーダーを頂戴しました。 こういった過去になかった仕事に意欲的に取り組んだのも、モノづくりにおいて“つくる衝動”を大切にしたいと思ったからです。

日々、納期に追われて仕事をしていますが、自分がこれはおもしろいと思う閃きや試みを、損得勘定なしで創作してみることも、時には大事なことだと思っています。モノが飽和状態の今ならなおのこと、価値のあるモノをつくろうと思うなら、心が赴くまま自らが楽しんでモノをつくるべきなのかもしれません。そうすれば、その魂に共鳴してくれる人がどこかにいるのでは、と期待しています。

さて、2008年を振り返った上で、09年の弊堂の取り組みのお話を少しさせいただきます。視点をワールドワイドにもって“吸収”することになりそうです。

世界の経済がどんどん悪化している状況を踏まえ、能動的に活動するのではなく、たくさんのことを吸収しながら、じっと好機を待つ姿勢、例えるなら「ビバーク」の状態です。「ビバーク」とは、登山用語として『野営する』意味として使われますが、その目的にある『やみくもに行動せずに、体力を温存し冷静に思考する時間を取る』として、この不況の波が通り過ぎるのを待つつもりです。自ら動かざるとも、世界を見ること、そしてその目線で吸収することによって、また新たな道へと繋げていきたいと思っています。

その“吸収”の第一歩としまして、今月の23~27日、パリで開催されるメゾン・エ・オブジェ(インテリアデコレーション・デザイン・家具の見本市)に初参加してきます。今回、京都商工会議所さんから声をかけていただき、出展が実現いたしました。

日本の錫製品・金属工芸品に対する、世界の人々のレスポンスを直に伺うことができる機会を与えていただいたことを、大変ありがたく感じております。 出展作品は、清課堂の既存の作品から大きくそれることはせずに少し設計だけを変えたもの。例えば、煎茶道で用いられるお茶托はキャンドルホルダーとして、盆手前で用いる湯沸かしはティーポットとして改造し、出展します。

日本の伝統的な技法や美意識に絶対的な自信がありますが、品をそのまま持ってゆくだけでは現地の生活の場で使われることはないかもしれません。芯の部分はそのままに、生活文化・様式に少し歩み寄ったものを提案しようと思っています。 捉え方を少し変えただけで、モノは新しいモノとして生まれ変わることができます。

これは、古くから日本人が得意とし、大切にしてきた“見立て”ではないかと思います。この“見立て”の思想が、これからどんどん活用していかれればと思います。

清課堂は、日本はもちろん海外からのご要望にも柔軟に対応していきたいと思っています。そのために世界中の生活文化や風習にも、もっと歩み寄りたい。メゾン・エ・オブジェでは、海外の人々の反応を肌で感じてまいりたいと思っています。 メゾンのご報告は、また改めてさせていただきます。 では皆様、本年も何卒宜しくお願いいたします。