お取り扱いの注意 溶解・スズペスト

2009.01.08  金属工芸品のお手入れ

この時期、よく持ち込まれる錫製品修理の一つが「溶解」。解かしてしまう?などありえないことに思われる方も多いと思います。

しかしこれは、融点が非常に低い金属ならではのもの。250℃にまで温まれば、まるで砂糖菓子が崩れるように錫の器が溶解・崩壊します。

しかしなぜこの時期に、といいますのは、一年に一度この時だけ使う錫の器「屠蘇器」に関連しています。お正月を迎えるためだけに蔵から出して、数日間のみ使用します。それを今度、来年のために手入れをして収納するわけですが、洗ったあと水気・湿気を乾燥させるためにストーブの傍においておかれる方が非常に多いのです。火の傍では、あっという間に溶解してしまいます。くれぐれもご注意下さい。

 

それから、当工房の錫製品取り扱い説明書に、「冷凍庫で保管しないでください、変質の恐れがあります」と書かれています。ここでいう「変質」とは、いったいどんなものなのかご紹介いたします。

錫(スズ)は、炭素元素が黒炭からダイヤモンドに変化するように、元素的な組成は変わらず構造が大きく異なる「同素体」をもつ元素の一つです。錫には3つの同位体があり、その中でも「灰色スズ」への変化が有名です。別名「スズペスト」とも呼ばれています。

極低温状態が長時間続くことによって、この変化が現れます。実際の器物では、氷点下10度以下で希に起こることがあります。家庭用の冷凍庫へ入れっぱなしにし実験を繰り返しますと、数ヶ月で変化が部分的に現れます。使用の状況で大差があるので一概には言えませんが、低温とくに氷点下になることに注意が必要です。

*お使いの直前に急冷される程度でしたら、大丈夫かと思われます。

一目見て、明らかに他の部分との違いが判ります。灰色をしていて光沢がなく、大きく膨張しています。切削工具を用いると、硬く非常にもろいことも判ります。熱を加えても通常通り溶解することもありません。まるでコンクリートのようです。

これが出現しますと、ほぼ修理が不可能になります。写真は、たまたまお客様からお預かりしたコップですが、ここまでくると手の施しようがありませんでした。