モノにいのちを吹き込む(火鉢を使ったワインクーラー)

2008.12.26  お誂え しつらい

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古くから生活に溶け込んできた工芸品の中にも、時代の移り変わり、生活様式の変化によって、身の回りから消え去ってしまったものがあります。その代表的なものに、「火鉢」が挙げられます。

「暖をとるという用」を為すだけなら、電気、ガス、石油ストーブで十分事足りますし、床暖房やオイルヒーターなど、この近年になって新しい暖房器具も出てまいり、「火鉢」はその役目を終えました。しかし、この「火鉢」は単に用を為すだけでなく、すぐれたデザイン、高い技術を用いて作られた美術工芸品でもありました。

残念なことに、現代生活の中では活躍の場がほとんどありません。機密性の高い現代建築内では、使用が危ないくらいです。よって今「火鉢」はほとんど作られていないばかりか、骨董・古道具店でも二束三文で売買されている状態です。弊堂の近くにある骨董店でも、青銅素地に色鮮やかな金銀象嵌・繊細な彫りが施された、当時今のお金に換算すればクルマが一台買える位のお金を掛けて作られたと思われる上等の火鉢が、地金代にもならぬくらいの低い価格で売られていました。

ワインクーラー

さてこの「火鉢」、今は置物くらいにしかならない世から忘れ去られた存在。これに命を吹き込んでやります。壊れて使い物にならなくなったモノを修理するのと同じように、使いようの無いものを、今の我々が使えるようにしてやります。

 

で、1ヶ月をかけて生まれ変わりました。ワインクーラーです。

もともと火鉢は、非常に高い断熱性・保温性をもつ構造をしています。中に氷水を詰めても長く冷たく保てるほか、結露した水で周りを汚すこともありません。和の空間に合うデザインのワインクーラーはなかなかありませんが、これは周囲ともしっくり調和することでしょう。

今回は銅製のオトシの内側にぴったりと填まる、錫を用いた「槽」を新に作りました。この方法のほか、もともと付いている銅のオトシの状態によっては、漆をかけ防水し、金・銀箔を押すことも出来ます。

 

錫オトシ(丸モノ)

Wine Cooler

Wine Cooler